「ここ、うっかり計算ミスやん」
お母さんは、そう言っただけです。
怒ったわけでもない。
責めたつもりもない。
ところが子どもは、
「分かってる!」
と、突然キレる。
お母さんからすれば、
「いやいや、計算ミスを言っただけやん」
です。
どうして、こんなことで怒るのでしょう。
私は、子どもの中に残っている「母子一体感」が関係していると思っています。
子どもは母親に、
「自分のことを、全部分かってくれて当然」
と思っているところがあるのです。
子どもは計算ミスだけで怒っているのではない
中学受験をしている子どもの頭の中には、いろいろなものが入っています。
塾の宿題が終わらない。
苦手な問題が解けない。
小テストの点が悪かった。
先生から注意された。
周りの子が自分よりできている。
次の模試も気になる。
そのうえ、自分が何に困っているのか、自分でもよく分からなくなっている。
そんな状態で、目の前の問題を解いています。
そこへ、お母さんから、
「ここ、うっかり計算ミスやん」
と言われる。
お母さんは、目の前の一問について話しています。
でも、子どもの中では違います。
「こんなに毎日大変なのに」
「今日は塾でも嫌なことがあったのに」
「自分でも、うまくいかなくて困っているのに」
「お母さんまで、そこしか見てくれへんの?」
そんな気持ちが一気に出てくる。
それが、
「分かってる!」
という言葉になるのだと、私は思います。
私が言う「母子一体感」とは
ここで言う母子一体感は、難しい心理学の話ではありません。
子どもの中にある、
「お母さんなら、言わなくても分かってくれるはず」
という感覚です。
塾の先生には、そこまで求めません。
友達にも、全部分かってもらおうとは思わないでしょう。
でも、お母さんは別です。
自分が何に困っているのか。
なぜ今日はイライラしているのか。
どれくらい頑張っているのか。
うまく説明できなくても、お母さんだけには分かっていてほしい。
子どもにとって母親は、
「何も言わなくても、自分のことを分かってくれる人」
なのです。
もちろん、そんなことは無理です。
お母さんにも、子どもの頭の中までは見えません。
今日は塾で何があったのか。
どの問題から分からなくなったのか。
なぜ機嫌が悪いのか。
説明してもらわなければ分からないこともあります。
でも子どもは、
「説明しなければ分からない」
とは思っていない。
「お母さんなら、分かって当然」
と思っている。
ずいぶん勝手な話です。
でも、それくらい母親を自分に近い存在だと思っているのでしょう。
「計算ミスやん」が最後の一滴になる
コップの中に、少しずつ水がたまっているとします。
宿題が多かった。
問題が解けなかった。
塾で疲れた。
眠たい。
自信もなくなってきた。
そういうものが、一日かけてコップの中にたまっています。
そこへ、
「ここ、うっかり計算ミスやん」
の一滴が入る。
そして、あふれる。
外から見ると、その一滴で怒ったように見えます。
でも、本当は朝からいろいろなものがたまっていた。
しかも最後の一滴を入れたのが、
「自分のことを全部分かってくれているはずのお母さん」
だった。
それで余計に腹が立つ。
子どもにとっては、
「計算ミスを指摘された」
だけではないのです。
「お母さんにも分かってもらえなかった」
という気持ちまで混ざっているのでしょう。
親は正しいことを言っている
ここで、お母さんが悪いと言いたいわけではありません。
計算ミスは計算ミスです。
間違っているところを指摘するのも、間違いではありません。
子どもの頭の中を全部分かれと言われても、無理です。
エスパーちゃうんやから。
ただ、正しいことを言ったのに子どもがキレた時、
「何、その言い方!」
と、すぐに正しさで返さないでほしいのです。
そこで親も腹を立てると、
計算ミスの話はどこかへ行ってしまいます。
最後に残るのは、親子の嫌な空気だけです。
計算ミスは、明日でも直せます。
でも、今この子の中には、いろいろなものがたまっている。
そう見てあげてほしいのです。
「毎日、大変やもんな」と思ってみる
子どもがキレた時、すぐに優しい言葉をかける必要はありません。
親だって腹が立ちます。
「こっちは手伝ってるのに、なんやその態度は」
と思うでしょう。
それも普通です。
それでも心のどこかで、
「まあ、毎日大変やもんな」
と思ってみてください。
実際に、
「毎日、大変やもんな」
と言ってもいい。
子どもが素直に、
「うん。分かってくれてありがとう」
などと言うかどうかは知りません。
たぶん、言わないでしょう。
「別に」
で終わるかもしれません。
でも、それでいいのです。
子どもが欲しかったのは、立派な励ましではありません。
「今の自分は大変なんだ」と、いちばん近い人に分かってもらうことです。
キレた子どもの見方を少し変える
子どもが母親にキレた。
それを、
「反抗的な子になった」
と見ることもできます。
「親をなめている」
と見ることもできます。
でも私は、
「お母さんなら、全部分かってくれると思っているんやな」
と見てもいいと思います。
もちろん、何を言っても許されるわけではありません。
落ち着いてから、
「腹が立っても、その言い方はやめような」
と伝えればいい。
ただ、キレた瞬間に、親まで一緒にキレなくてもいい。
「ああ、出ました。母子一体感」
くらいに思っておく。
少し変な見方ですが、そう考えると、親の腹の立ち方も少し変わるのではないでしょうか。
子どもは、計算ミスで怒っているのではない。
分からなくなっている自分を、お母さんには分かってほしかった。
だから、まずは一問の解き直しより、
「毎日、大変やもんな」
です。
計算ミスを直すのは、そのあとで十分です。
この記事を書いた人|ミスター・ツカム
中学受験指導歴20年以上。個別指導塾で、延べ3,000人以上の子どものノートを見てきました。子どもの「やる気」や根性だけに頼らない学習の仕組みを考えています。
