問題を間違えると、急に怒り出す。

ノートにむちゃくちゃな線を書く。
鉛筆を投げる。
ノートを破る。
「もうやらない!」と大声を出す。

そんな子どもの姿を見ていると、親御さんも困ってしまいます。

優しく声をかけても怒る。
間違いを説明しても聞かない。
放っておくと、そのまま勉強をやめてしまう。

いったい、どうすればよいのでしょうか。

私は、発達障害の専門家ではありません。

ただ、中学受験の指導を20年以上続け、延べ3,000人以上の子どものノートを見てきました。その中には、私たち講師がどう接すればよいのか分からなくなった子もいました。

間違いが続くと、ノートを破り始めた女の子

私が塾講師をしていた頃、小学4年生くらいの女の子を教えたことがあります。

その子は、決して勉強ができない子ではありませんでした。むしろ、できるほうだったと思います。

ところが、宿題の答え合わせで間違いが続くと、ノートにむちゃくちゃな線を書き始めました。

そして、そのうちノートを破り始めるのです。

当時の私は、発達障害という考え方をほとんど知りませんでした。その子が発達障害だったかどうかも分かりません。

ただ、間違いが続くと感情を抑えられなくなるその子に、どう接すればよいのか。

塾の担任も私も困り果てていました。

荒れている間は、勉強を教える時間ではない

子どもが怒り出したとき、こちらは何とか勉強へ戻そうとします。

「落ち着きなさい」
「間違えてもいいから」
「ここをもう一度考えてみよう」

どれも間違った言葉ではありません。

しかし、その女の子には届きませんでした。

説明を続けても、注意しても、励ましても、勉強には戻れません。

私にできたのは、落ち着くまでじっと待つことでした。

何も教えず、説得もせず、ただ待つ。

もちろん、人をたたいたり、危険な物を投げたりする場合は、まず安全を確保する必要があります。

そうでなければ、無理に勉強へ戻そうとせず、その子の気持ちが落ち着くのを待ちました。

講師として、それでよいのかという迷いはありました。しかし、気持ちが荒れている最中に勉強を続けても、理解できることはほとんどありませんでした。

荒れている時間は、勉強を教える時間ではない。

私は、その子からそう教えられたように思います。

90分で一つか二つ分かれば、それでよい日もある

塾の授業には、予定があります。

今日はこのページまで進みたい。
この問題は説明しておきたい。
宿題の間違いを全部直したい。

しかし、その子を教えるときは、予定どおりに進まないことも少なくありませんでした。

そこで私は、授業の合格ラインを変えました。

90分の授業で、一つか二つでも「分かった」が残れば、それでよい。

全部終わらせることを目標にすると、できなかったことばかりが残ります。

けれども、一つ分かった。
一問だけ自分で解けた。
怒ったあと、もう一度だけ問題を見ることができた。

それも、その子にとっては学習です。

予定していたページまで進まなかったからといって、その日の授業がすべて失敗だったわけではありません。

そして授業が終わると、その女の子は、しっかりと「ありがとうございました」と言って帰っていきました。

授業中にノートを破った姿だけが、その子のすべてではありません。

気持ちが落ち着けば、きちんと挨拶のできる子でした。

だから私は、感情が荒れた一場面だけを見て、「勉強する気がない子」「困った子」と決めつけてはいけないと思っています。

「勉強ができないから怒る」とは限らない

その女の子は、勉強ができるほうでした。

だからこそ私は、能力があることと、間違いが続いたときに気持ちを立て直せることは、別なのだと感じました。

「これくらい分かるはず」
「前はできていたのに」
「あなたならできるでしょう」

周囲の期待が、本人には苦しく感じられることもあるのかもしれません。

もちろん、子どもが何を感じて怒っているのかは、外から簡単には分かりません。

間違えるのが悔しいのか。
できない自分を見られたくないのか。
疲れて、もう限界なのか。
説明が理解できず、混乱しているのか。

理由を一つに決めつけないほうがよいと思います。

親が探すのは、怒らせない魔法の言葉ではない

親御さんは、すでにいろいろ試していると思います。

つきっきりで勉強を見る。
優しく声をかける。
厳しく注意する。
少し放っておく。
本人の好きなようにやらせる。

それでも、子どもが怒ったり、勉強をやめたりする。

そんなことが続けば、親御さんも疲れます。

「私の接し方が悪いのではないか」

そう考えてしまうかもしれません。

しかし、すべての子どもに効く、正しい言葉のかけ方があるわけではありません。

探したいのは、怒らせない魔法の言葉ではなく、その子がもう一度戻ってこられる条件です。

例えば、

  • 間違いが何問続いたところで苦しくなったのか

  • その日は疲れていなかったか

  • 答え合わせを一度にやり過ぎていなかったか

  • 親が横にいるほうがよいのか、少し離れたほうがよいのか

  • すぐに直さず、翌日に回したほうがよいのか

  • 一問だけなら、もう一度取り組めるのか

一度に全部変える必要はありません。

一つだけ変えて、子どもの反応を見る。

うまくいかなければ、

「この方法は、この子には合わなかった」

それだけでよいのです。

子どもを直すのではなく、動ける条件を探す

つきっきりで見ても怒る。
放っておいても何もしない。

その間で悩んでいる親御さんは多いと思います。

しかし、「どこまで親が手伝うか」だけで考えると、答えが見つかりません。

今日の課題を全部終わらせることよりも、

この子は、どんな言葉なら聞けるのか。
どのくらいの距離なら落ち着けるのか。
何問なら取り組めるのか。
怒ったあと、どうすれば戻ってこられるのか。

それを少しずつ探していく。

子どもを直すのではありません。

この子が学びやすい条件を、親子で見つけていくのです。

その日の勉強が一つか二つしか進まなくても、子どもに合う条件が一つ分かったなら、何も得られなかった日ではありません。

一つ分かった。
一問できた。
もう一度、机に戻れた。

まずは、それをその日の合格にしてもよいのではないでしょうか。


この記事を書いた人|ミスター・ツカム
中学受験指導歴20年以上。個別指導塾で、延べ3,000人以上の子どものノートを見てきました。子どもの「やる気」や根性だけに頼らない学習の仕組みを考えています。

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